Talk Vol.6

スポーツはビジネスになる(上)

東北楽天野球団元オーナー/U-NEXT特別顧問
島田 亨

2回目のゲストとして登場いただくのは、島田亨さん。
プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスの球団社長、オーナーとして活躍しました。
2004年プロ野球再編問題で誕生した新球団を参入1年目で黒字経営に導いた手腕は高く評価されています。プロ野球球団経営は儲からない。そんな常識を覆した島田さんが語るスポーツビジネスの現実と未来とは――。

二宮清純: 島田さんは東北楽天の球団経営に関わってきました。私も長いことプロ野球を取材してきましたが、一番驚いたのは1年目に黒字を出したことです。“プロ野球は赤字が当たり前”という刷り込みがあったので、野球関係者にとても衝撃だったのではないでしょうか。これは最初から自信がありましたか?

島田亨: 実はですね。初年度の黒字はなるべくしてなったんです。

今矢賢一: それはなぜでしょう?

島田: 野球は1シーズン通して見た時に売り上げが立つ期間と、コストだけが出る期間があります。僕らが参入した時は秋季キャンプも終了していて、コストがかかる時期は過ぎていました。つまり1年間でかかるべきコストの3分1はかからない状態でスタートできたんです。だから逆に言えば、黒字になって当然なんですね。

今矢: なるほど。ファンクラブにカテゴリーをつくられるなど初年度からいろいろな工夫をされていましたね。

島田: そうですね。売り上げをある程度出せば、黒字になるのは分かっていました。その時はどこの球団も広告宣伝費の一環として、極端に言えば“黒字になる必要はない”という意識でやっていたところがありました。結果的にはそれで近鉄の赤字を親会社が補填できなくなり、球団がなくなってしまった。だから「プロ野球経営でも黒字が出る」とのメッセージを打ち出そうと考えていました。

二宮: 島田さん的には“確信犯”だったんですね。

島田: ええ。「プロ野球を経営しよう」というマインドセットをもっていったことによって、初年度に出した中長期事業計画の中で、フルシーズンを通しての黒字化は10年後までに果たすと考えていたんです。同時に日本一になるとも言っていました。初年度に勢いをつけたことで、スポンサーも集まっていただき、好循環になった。結果的には9年目の13年には黒字を達成することができて、有り難いことに日本一にもなれました。

二宮: まさに計画通りですね。黒字化の要因のひとつには球場経営が挙げられます。

島田: ホームスタジアムは宮城県営球場です。宮城県との契約で改修に関する費用は球団が出す代わりに球場使用料を減免するという取り引きを結びました。

二宮: 物販やチケット収入の何割かは譲渡するかたちですか?

島田: いえ。それは全額入ります。唯一、県とシェアしたのは球場の命名権ですね。

二宮: 球場ビジネスに関しては、ビールの売り子の動きまで、注目されたと伺いました。

島田: はい。売れている子はデータで出ていますから、「なぜ売れているのか」を現場に聞いたりしました。あとはそのノウハウを横展開すればいいので、難しい話ではないんです。

二宮: “真実は細部に宿る”と言いますが、それまでの球団経営は大雑把な部分もありましたよね。

島田: 役割分担のような感覚なんですね。シーズンが始まるまではいろいろな準備が必要です。それは経営戦略そのもの。いざシーズンが始まるとチームに関われる部分は少ない。オンシーズンは動いている興行をちゃんと見て、どう改善していくかなんです。

今矢: 運営側の人材育成でユニークなことはされましたか?

島田: 新興球団でしたし、ゼロからつくったこともあったので野球チームのコアな部分は経験者に任せました。例えば用具担当などはいきなり素人には難しい。

二宮: 確かにそうですね。

島田: 一方で広報はスポーツ紙とガッチリやってきた人より、企業戦略広報をやってきた人の方がいいと思ったんです。広報はチーム側に歩み寄りがちなんですが、必ず興行側から送り込んで、できるだけオープンにしていくことを心がけました。

<Vol.7に続く>

ゲスト

島田 亨(しまだ とおる)

1965年生まれ。87年に東海大学卒業後、株式会社リクルートに入社。営業職で活躍した。89年には株式会社インテリジェンスを創業。2000年には株式会社シーズホールディングスの代表取締役を務めるなど、複数の企業で経営に参加した。04年10月には楽天野球団に迎えられ、副社長を経て、代表取締役社長に就任。08年には三木谷浩史氏よりオーナー職を引き継ぎ、球団社長と兼任した。

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