Talk Vol.11

ワクワクやドキドキをスタジアム・アリーナに(下)

建築家
仙田 満

Sportful Talks、第4回目のゲストは建築家の仙田満さん。建築家として新広島市民球場(マツダスタジアム)の設計を手掛けるなど、様々なスポーツ施設建造に携わってきました。「遊び心」を大切にする仙田さんが考えるスタジアム・アリーナの理想像とは――。

【失われつつある遊び場】

今矢: 僕は中学校から高校、大学とオーストラリアに住んでいました。オーストラリアの公園の遊具は日本の公園よりも明らかに子どもたちがワクワクするつくりになっているんです。パッと見ではどのように遊ぶのかわからない形状をしている遊具でも、子どもたちが工夫して遊んでいる姿を見掛けます。

二宮: 日本は遊具はだいたい決まっていて、“これで遊びなさい”という画一的な印象がありますね。

仙田: そうですね。日本は1990年代以前に「児童公園」というカテゴリーがあったのですが、今は「街区公園」に名称を変えています。それは高齢化社会になって公園を大人が占拠してしまう現状を追認してしまった。それなのに日本政府は子どもの環境を守ろうとするのではなく、名前を変えてしまったんです。だから公園の利用率もこの30年間下がっています。

二宮: それは寂しいですね。

仙田: でもようやくここにきて公園の利用率アップのため、公園内に保育園をつくったり、コーヒーショップが設置されるようになりました。スポーツ施設もつくれるようになり、楽しい遊び場に少しずつ変わってきています。

今矢: これはやはりルールが変わってきているということですか?

仙田: 法律自体はそれほど変わってはいないのですが、運用の仕方が変わってきたんだと思います。

二宮: 日本の公園はブランコ、滑り台、砂場による3点セットという印象です。これは何か決まりがあったのですか?

仙田: それが標準タイプだったんです。

二宮: どこに行っても同じという“金太郎飴”のようで個性に欠けますよ。それともうひとつ、よく言われる「都市公園法」ですよね。この法令には改善の余地があると言われています。

仙田: 原則的には自治体の長の権限に委ねられていると言われますが、原則は商業的なものは排除されます。例えば日比谷公園には松本楼のように戦前から有名なレストランがありますが、一般の公園にはつくれません。

二宮: もったいないですね。

仙田: 本当にそうです。そういったものを積極的に建てることによって公園の利用率が上がりますから。

今矢: 今、東京の二子玉川公園には、コーヒーショップのスターバックスが入っています。週末は結構人で溢れています。

仙田: 富山にある富岩運河環水公園は、私も設計をお手伝いしたのですが、ここもスターバックスが入っていて「世界一美しいスターバックス」と言われているそうです。スターバックスができたことで、年間70万人の利用者が140万人と2倍になった。今や都市的観光地になっています。やはり飲食は大事ですね。

今矢: そうですね。オーストラリアはマクドナルドの中にちょっとした遊具がついていて、子どもと遊べるスペースがあります。誕生日会があれば、そのエリアだけ貸し切ることもあるんです。

仙田: 横浜の山下公園にある「ハッピーローソン」も手掛けました。これはコンビニエンスストアの「ローソン」に子どもの遊び場とカフェをくっつけたものです。大人気です。

【“楽しむ”ことを最優先すべき】

二宮: 安倍晋三首相は未来投資会議でスタジアムやアリーナを「2025年までに20カ所整備する」と語っています。ヨーロッパの一部のスタジアム・アリーナは保育園、病院、スーパーマーケットなどが併設されていて「オールインワン型」と呼べるようなつくりです。日本ではそういったものは難しいのでしょうか?

仙田: そんなことはないと思うんです。スポーツは運動すると同時に休むことも重要です。しかし、そういったことについての意識が日本は薄い気がします。飲食に関しても、事業をできなければいけないので日本の役所が自主運営しているかたちだけでは限界があると思います。もっと民間的なノウハウを入れないとダメですね。

二宮: そうですよね。それに日本の場合、スタジアムやアリーナで応援していても「酒なんか飲んでいる場合じゃない! もっと真剣に応援しろ!」と言いたげな視線が気になります。

仙田: スポーツ施設のつくり方も「観戦に集中しなきゃいけない」という考えがベースにありますね。私は試合が面白ければもちろん集中しますが、そうでなければ別の楽しみ方があってもいいと思うんです。競技場内を歩き回って「ここから見るとこう見えるんだ」と感じることも悪くない。私はアメリカの球場に行くといろいろなところを歩き回るから、警備の人に怒られちゃう(笑)。

二宮: 見る角度によっても楽しみ方が全然違いますからね。

今矢: 海外のテニス大会では会場に入るためのチケットがあります。アリーナ内に入らなくても、外からパブリックビューイングのようなかたちで試合を見ることができて、会場内のワクワク感も味わうことができる。各々の楽しみ方があって、試合中に食べても飲んでいてもいいんです。

二宮: 日本の場合は「席を立たないでください!」と注意されることもありますから、楽しみ方もどこか制限されているような気がします。マツダスタジアムが典型ですが、仙田さんの作品には多様性と遊び心が詰まっている気がして、さらなる活躍を、と期待したくなります。

仙田: 私は建築を考えること自体、ほとんど遊びだと思っているんです。だから楽しむことが重要ですし、ある意味、仕事が遊びだとも言えますね(笑)。

ゲスト

仙田 満(せんだ みつる)

1941年12月8日生まれ。建築家。東京工業大学名誉教授。株式会社環境デザイン研究所会長。東京工業大学工学部建築学科卒業後、菊竹清訓建築設計事務所に入所した。68年に環境デザイン研究所を設立。1978年の毎日デザイン賞を皮切りに多数の賞を受賞した。近年の代表作に新広島市民球場(日本建築家協会賞)、国際教養大学図書館(村野藤吾賞)などがある。

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