Talk Vol.17

サッカーの価値は無限(下)

東京ユナイテッドFC共同代表兼監督
福田 雅

第7回のゲストは東京23区から初のJリーグ入りを目指す「東京ユナイテッドフットボールクラブ」の福田雅共同代表兼監督です。JFLの1つ下のカテゴリーに属する地域リーグ(関東リーグ1部)の東京ユナイテッドFCは東京大学OBと慶應義塾大学OBをルーツに持つクラブ。座学からの学びとスポーツからの学びを融合した優れた人材輩出を目標としています。福田代表が描くサッカーが繋ぐ大学コミュニティと地域コミュニティの融合とは――。

【クラブのルーツがアイデンティティ】
二宮: 東京大学は文京区にキャンパスがあります。

福田: 当初は慶大のキャンパスがある日吉のグラウンドで練習していた時期もありましたが、文京区や東大OBのサポートも得られるようになったので活動拠点を文京区に移しました。さらには女子サッカーの受け皿となれるように僕らは女子の「文京LBレディース」というチームも持っています。女子の選手たちが生涯サッカーをやり続けられる環境を用意したいと思ったからです。そんな活動が実を結び、今年の1月には文京区と相互協力協定を締結する運びとなり、より公式にクラブ全体を応援していただけることになりました。

二宮: 世界のサッカークラブにはいろいろな成り立ちがあります。ドイツ・ブンデスリーガのシャルケ04は炭鉱労働者のまちのクラブです。今矢さんが住んでいたオーストラリアのクラブ成立事情は?

今矢: サッカーだとオーストラリアは移民の国ですから、そのコミュニティがルーツになっていることが多いです。カズ(三浦知良)選手がかつて所属していたシドニーFCは、元々ギリシャ系ですね。シドニーオリンピックという名称でギリシャ、イタリア系が多かった。あとはマルタ系やスロベニア、ボスニア系のチームがありました。僕らがいた90年代は内戦をしている国をルーツに持つクラブ同士の試合だと、警備体制もかなり厳しくなりました。雰囲気も全然違いましたね。

福田: クラブのルーツがアイデンティティとなって、クラブ同士の対立の構造は今のステージからできていなければダメだと思うんです。だから僕らも東大と慶大を前面に押し出して、ヒール役になってもいいから個性を出していこうと考えています。

二宮: それはいいアイデアですね。オーストラリアのリーグは、その後どう成長していったのでしょうか?

今矢: 日本のJリーグができた時の100年構想のようなビジョンがあったと思います。オーストラリアはAリーグになったタイミングで民族色は消したはずです。Aリーグがスタートした当初は西シドニーにチームがなかった。それこそ東京23区内にサッカークラブがないような状況でした。12-13シーズンからウェスタン・シドニー・ワンダラーズができました。小野伸二選手も当時は所属していました。元々サッカー熱の高い地域だったので、一気にファンが集まって初年度でレギュラーシーズンを優勝で終えたんです。

福田: その後、小野選手がコンサドーレ札幌に移籍してからはどうなったんですか?

今矢: クラブ創設3年目でAFCアジアチャンピオンズリーグも制しました。今もファンがついているという意味では、すごく成功していますね。

【教育というストロングポイント】
二宮: 普遍化、一般化していくためにはどういう作業が必要だと考えていますか?

福田: モデルはバルセロナです。カタルーニャ地方の少数民族のクラブがグローバル化していった。ひとつはブレずに地味なことをやっていくしかないなと思っています。ルーツは東大と慶大ですが、何を実現したいかと言えばスポーツのステータスを上げることです。人間形成の場として、スポーツは座学と変わらないぐらい重要なものとして考えていて、教育のコンテンツとしての価値をもっと訴えていきたい。今のJリーグクラブの差別化を図るのは地域性と強さの2軸だと思うのですが、“ここのクラブは違うよね”と言われるような存在を目指しています。

二宮: いずれは教育産業をバックに付けるとか、そういう提案もできますよね。

福田: そうですね。どこかの塾と提携することもできますし、クラブのスタッフには僕を含め会計士、弁護士がいます。クラブが会計士事務所と弁護士事務所を経営しているので、選手たちのセカンドキャリアにも繋がる。私たちが選手たちを受け入れて職業訓練させて、スポンサー企業などに就職してもらえたら、とてもいいサイクルになると思うんです。

二宮: 東京ユナイテッドFCが「セカンドキャリアに定評がある」ということになれば、ビジネスにも繋がりますよね。

福田: 選手も安心して来られると思います。地元の名士の弁護士や会計士がいる。例えばレアル・マドリード会計事務所、レアル・マドリード弁護士事務所があったらおもしろいじゃないですか。それで僕らもつくってみたんですよ。クラブの価値が上がれば、ビジネス部門の価値も上がる。このクラブだからこそ、できる周辺ビジネスがあると考えています。

二宮: クラブとしての強みを生かすわけですね。

福田: 来シーズンからは文京区のソレイユFCと提携して、東京ユナイテッドソレイユFCという育成年代のクラブを始動させます。活動内容はトレーニング前に選手たちの自習時間を設けて、勉強が終わった子どもから練習に参加できるというシステムにします。勉強をする習慣を付けようと思っているんです。

二宮: それは親御さんからも理解を得られそうですね。

福田: 入団には際し、セレクションは実施しますが、技術で落としていないんです。親との面接で、子どもが一生懸命で親とクラブが信頼関係を築けそうならば基本的には合格にしています。

今矢: インフラという面ではJクラブを目指すためのホームスタジアムはどのようにお考えですか?

福田: 「このクラブのためにスタジアムをつくろう」「このクラブにスタジアムを使ってもらおう」。それぐらいのクラブにならなければ、僕らも価値がないなと思っているんです。そこは僕らの勝負。そういう意味ではチャレンジだと思っていますし、「ここをJリーグに上げないと盛り上がらない。もしくは日本サッカーの発展はないでしょう」と言わせるような存在にならないといけません。

二宮: その意味ではクラブの顔である福田さんのキャラクターも重要になってきます。

福田: 私は基本的に人が好きですから、どこにでも入っていくんですよね。サッカーを通じての繋がりや広がりは無限の可能性がある。こんなにも人を豊かにするコンテンツはないんじゃないかと思っています。僕は中学校を素行不良で退学になっているんです。そこから暁星高校サッカー部に入部して人生をやり直せた。サッカーに救われたという思いは強く、サッカーに対して恩返しをしたいんです。サッカー、スポーツの価値をいろいろな人に伝えていきたいと思っています。

<東京ユナイテッドFC 2018紹介ビデオ>

ゲスト

福田 雅(ふくだ まさし)

1975年5月9日生まれ。暁星高校サッカー部時代には全国高校サッカー選手権大会に出場。東京大学進学後はア式蹴球部に所属し、4年時にはキャプテンを務めた。2000年東京大学経済学部卒業後、公認会計士の資格を取得。06年に母校の東大ア式蹴球部監督に就任した。10年には社会人チーム慶應BRB再結成に参画。13年に同チームの監督に就任する。15年に一般社団法人CLUB&BRB創設し、代表兼監督に就いた。同年にみずほ証券株式会社に入社。16年より日本サッカー協会監事も務めている。

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