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Columnコラム

2012.12.25勝負を左右する「目力」

2012年のスポーツ名シーンを振り返った時、あの鋭い眼光を思い出す人も多いのではないか。柔道で男女通じて唯一の金メダルを胸に飾った松本薫(女子57キロ級)の「野獣のような目」である。

 

「もし相手が自分と同じような目をしていたら、どんな気持ちになるでしょう?」

 

五輪後、テレビで私の問い掛けにニコッと笑った彼女は間髪入れずに答えた。

 

「うれしいです。私と同じ目を持っている人と戦えるのは光栄です」

 

過日、松本に質問の続きをした。

 

「柔道界であなたと同じ目を持っている選手は?」

 

「いません」

 

「では、他の競技では?」

 

「女子レスリングの吉田沙保里さんです。目に全くスキがない」

 

「じゃあ戦ってみたい?」

 

「いや、沙保里さんとだけは戦いたくないなぁ(笑)」

 

松本の帝京大の先輩にあたる谷亮子も、現役時代、目の話をしていた。

 

「目が合ったら、先にそらしてはいけない。これは7歳で柔道を始めた時の教えです。といって、別ににらみつけるというわけではない。相手を見つめ続ける。目を通じて相手の情報を得、肌で雰囲気を感じ取る。これは柔道を始めた時から、ずっと意識していることです」

 

柔道の世界において一流は組んだ瞬間に相手の実力がわかる、という。その伝で言えば超一流は相手の目を見れば、全てが見通せるということなのだろう。

 

男子でも60キロ級で五輪3連覇を達成した野村忠宏に、目にまつわるエピソードを聞いたことがある。野村には試合前、必ず行う”儀式”があった。トイレに行き、そこで顔を洗い、さらには腕や足を水で濡らす。さらにもう1回、冷たい水で顔を清める。そして再び自らの顔を見る。両手で自分の顔を叩き、「よぉーしっ!」と気合を入れる。

 

その上で鏡に映る自分の目を凝視するのだ。

 

「強い目をしているか、生きた目をしているか、戦う男の目をしているか……」

 

これを確認してから畳に上がっていたのだ。

 

一言で言えば、”目力”とでも呼べばいいのだろう。松本にしろ、谷にしろ、野村にしろ、強い目をしていた。生きた目をしていた。戦う者の目をしていた。

 

ぜひ一度、自分の目を鏡で凝視してみよう。仕事のできる人間に、腐ったイワシのような目をした者はいないはずである。