フェアで透明性ある選考基準を

MGCに便乗できなかった車いすマラソン

オリパラ融合の歴史を作るチャンスを逃したTOKYO2020

 

2020年2月

 

オリンピック、パラリンピックの出場内定や国枠獲得が決まった競技もあるなか、これから最終選考大会を控えている競技も多い。

 

2012年のロンドン大会を目指す選手からのリクエストがきっかけで関わるようになった車いすマラソン競技においては、東京マラソン、4月のメジャーマラソン2本など、各候補選手達のそれぞれのレースに向けての調整が始まっている。

 

各レースの結果によって、次のレースで求められるタイムや、狙うべき最低順位が変わることもあり、選考基準をしっかり理解し、レースの選定、準備をしていくことが選手や強化スタッフに求められている。

 

選考基準では、IPC(国際パラリンピック委員会)の定める規定に則り、まずは「国枠」を獲得し、その上で各国の競技連盟(車いすマラソンの場合、日本パラ陸上競技連盟)が代表選手を推薦(実質的には決定)する。

 

車いすマラソンの日本代表は、過去何大会にも渡り、男女ともに世界で戦える選手達を輩出しており、特に男子における選手層の厚さは世界トップクラスである。

 

年に6回開催されるWMM(ワールドマラソンメジャーズ)など、プロレース化されている車いすマラソンは、近年一部の海外選手が圧倒的なスピード、パワー、スタミナをつけ、レースの戦い方や、勝つ基準が年々上がってきている状況だ。

 

そのような中、TOKYO2020に向けて最初の選考レースとなった昨年のロンドンマラソン。上位4名が国枠を1つ獲得できる条件のもと、鈴木朋樹選手が見事3位に入り、2020の出場権利を獲得した。(アメリカ、スイス、日本、中国の選手が獲得)

 

サポート帯同をしていた私も、車いすマラソン選手のスタートを見送った後にマラソンに参加しており、まだ15キロ地点ぐらいのところで、鈴木朋樹選手から「今矢さん、やりました!3位でした!ダニエル、マルセルとトップ3で走れました!」と嬉しい報告をもらったことが記憶に新しい。

 

一方課題の残る選考レースでもあった。

 

毎年WMMの1レースとして開催されるロンドンマラソンだが、2019年はWORLD PARA(世界パラ陸上)を兼ねて開催することとなり、国代表としてWORLD PARAに出場する選手しかロンドンマラソンへの出場ができない事態となり、各国の連盟の対応も分かれた。その結果、ロンドンマラソン側から招待されている複数の日本人選手が連盟側から派遣をしてもらえず、フライトキャンセル、ロンドンのレース賞金の取得可能性も諦めざるを得ない状況に陥り、選手に不利益だけが残る結果となった。

 

実は、ここ5年ほどの間に開催されたWORLD PARAにおいては、常に車いすマラソン種目だけがWORLD PARA開催都市とは別の場所で設定されており、いずれもロンドンマラソンが併催している。

 

具体的には、下記の通り、

2015年 ドーハ → 車いすマラソンだけロンドンマラソンと併催

2017年 ロンドン → WORLD PARA期間中ではなく、ロンドンマラソンと併催

2019年 ドバイ → 上記の通りロンドンマラソンの車いすマラソン種目自体がWORLD PARAとなる。

(ちなみに2021年は神戸開催だがどうするのだろうか?)

 

マラソン競技を開催するには、コース設計や、一般道路の封鎖、当日の運営など、多くのノウハウや人員を含めたリソースを必要とし、そのような経験が最も豊富であるロンドンマラソンで併催してもらいたいという、IPCやWORLD PARA開催都市の意向も一定の理解はできる。

 

但し、2019年の大会のように、本来併催の協力をしている側であるはずのロンドンマラソン主催者が、招待選手の出場を実現できない事態になったり、RIO2016の選考レースを兼ねた大会では、国代表ではなく出場していた選手が、その国のトップとして選考対象の順位でフィニッシュする事態が発生したりと、選手の立場からすると、フェアでクリアな選考基準とは言えないレースになってしまった課題もある。

 

100%全てのパターンを想定した選考基準ができることが望ましいが、国別の選考基準において、矛盾や不明点が生じる場合には、選手に対して納得のいく、そしてフェアでクリアな選考方針をスピーディーに決定し、選手、関係者に情報発信する対応を期待したい。

 

そして、今年のロンドンマラソン、である。

 

今年は、世界パラ陸上のマラソンワールドカップが併催される。

 

昨年と何が違うのか。なかなか複雑である。

複雑な時点で課題がある。こんな複雑な選考基準で国民がスポーツに親しめるだろうか。
MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)は、そのような意味でもフェアで透明性の選考基準であり、多くの国民も親しみやすく楽しめたのではないか。

 

さて、車いすマラソン競技に戻ると、IPCが定める選考規則に記載されている名称では、次のような違いがある。

 

昨年の大会が、2019 Marathon World Championshipsであり、今年の大会は、2020 World Para Athletics Marathon World Cupとなる。

 

この2020のワールドカップがどこで開催されるかは、IPCの選考規則発表時には決まっておらず、後日、今年のロンドンマラソンで併催されることが決定した。(選手や関係者は、薄々そうなるであろうと分かっていたが)

 

ワールドカップへ出場する、国代表の選考基準については、各国の連盟が決定しており、日本では2019年の大分国際車いすマラソン日本人上位3名がその権利を取得し、さらに1カ国の出場人数枠に変更があった場合には、追加される可能性もある、という条件になっている。(その後、日本は、出場枠が6枠まで増えた状況であることが開示されている)

 

上記の選考基準に基づいて、先日、日本代表としてワールドカップに派遣される選手が発表された。

 

男女とも2019大分国際車いすマラソンの日本人上位3名となり、男子は、鈴木朋樹選手、渡辺勝選手、山本浩之選手、女子は、喜納翼選手、土田和歌子選手、安川祐里香選手となった。

 

これに加え、今回は過去の課題に対するロンドンマラソン側での調整もあったようで、ロンドンマラソンの招待選手もレースに出場することが可能となった。選考が拮抗する男子では、ワールドカップの国代表3名以外にも、5名以上の日本人選手達が出場を予定している。いずれもWMMのレースで優勝や上位8位の経験があるトップクラスの選手達である。

 

では、このレース結果に対しては、どのような選考基準が設けられているか。

 

まずは、トップ6に入ることが大前提。その上で、既にTOKYO2020の出場枠を獲得した選手を除き(つまり昨年のロンドンマラソン上位4名)、上位2名が国枠を獲得することができる。

 

私が確認できている情報では、今回のレースにおいてはワールドカップの国代表かロンドンマラソン出場選手の否かに関わらず、トップ6かつ既に出場資格を有する選手を除いた上位2名に枠が与えられる。実際に走るコースもスタートも同じレースなので、強い選手、結果を出した選手が評価されるのは当然である。

 

しかし、選手間では情報や理解が錯綜しており、それぞれの置かれた状況においても色々な意見がありそうだ。

・ワールドカップに出場する3名しか対象にならないのではないか。

・仮にそうであるならば、なぜ出場枠として残っているであろう残りの3枠を使わないのか。

・日本の男子選手ぐらいしか該当するケースはないが、ワールドカップ出場者とロンドンマラソン出場者が選考対象となる場合、ワールドカップの最大枠6名を超える日本人選手が候補対象となり得る状況となるが問題ないのか。

・ロンドンマラソン出場選手も選考対象となるのであれば、ワールドカップの代表の持つ意味やそこに至った選考の重みが軽視されているのではないか。

・選手の多くは障がい者雇用枠で所属企業のサポートを得て、また競技に関連する企業やブランドから協賛等を得て活動しており、日本代表としてワールドカップに出場することで、所属企業やサポート企業のウェアやロゴ露出の機会を失うことになる。その結果、代表で出ないほうが、所属企業やスポンサーに貢献できる可能性が生じてしまうことに違和感を感じる。

など細かい点も含めて色々な気持ちがあるようである。

 

現時点で明確な答えが何なのか、私自身分かっていない。

 

英文で発表されている公式情報や、関係者からヒアリングできた情報を、少しでも丁寧に公開することで、各選手の選考基準に対する理解が深まり、それぞれの強みを最大限発揮して、フェアな環境で今後のレースに挑めることを願いたい。

 

これまで確認した限りでは、ワールドカップの国代表の有無に関わらず、全ての出場選手が選考対象となり、前述した条件の上位2名に枠が与えられるはずだろう。そして、その枠は誰のものになるのかは、各国の連盟に委ねられる。

 

日本パラ陸上競技連盟が発表している情報によると、選考レースにもそれぞれ優先順位をつけており、その内容によると、昨年のロンドンで出場権を獲得した鈴木朋樹選手は確定し、今年のロンドンで仮に2枠とも日本が獲得すれば、そこでTOKYO2020出場枠の3枠が決定する。

 

今年のロンドンで2枠が決まらなかった場合、または1枠のみ決まった場合、IPCの定める「ハイパフォーマンス割当枠」という基準に該当する選手の上位から順に決定するようだ。今回設定されている男子のハイパフォーマンス標準記録は、1時間24分02秒。

 

今後、選考期間内に開催される大会を考えると、コースと当日のコンディション、そして何より全体のペースとレース展開によっては十分にクリアできるレースが、東京とボストン、そして、昨年は秋口に移動したソウルも対象期間内となる従来通りの4月末〜5月上旬の開催となれば好タイムを狙えるレースとなる。

 

選考がハイパフォーマンス枠まで選考が延びた場合、その選考基準は比較的明快だ。

 

対象期間中(2018年10月1日〜2020年6月7日)に基準タイムの1時間24分02秒を上回るタイムを出し、世界ランキングで、可能な限り上位にいれば選考されることとなる。車いすマラソンの世界ランキングは、WMMのシリーズポイントや、テニス、ゴルフなどで用いられているような、複数の大会結果を加味したランキングではなく、該当期間中の指定大会で最も早いタイムを出した順となる。

 

2019年のランキングだと、一つの目安として、1時間30分以内のタイムを持つ選手は、車いすマラソン種目の対象クラスであるT53とT54に31名、うち9名が日本人選手で、国別では最も多い。これらの選手が、今後出場するレースで1時間24分02秒を上回るタイムを出せば、必然的にランキングトップ8に入り、ハイパフォーマンス枠での出場チャンスが出てくる。

 

そうなると、今一つ選手達のなかでクリアになっていないのが、やはり、ロンドンマラソンでの結果に対する日本国内の選考基準だ。日本パラ陸上競技連盟が記載している内容は、基本的にはIPCが公式に発表している内容を和訳したものとなるが、どう解釈して良いかは、選手達がクリアにしておいたほうが良いと感じる。

 

文面には、「2020 WPA マラソンワールドカップで 6 位以内入賞かつ 2020 WPA マラソン ワールドカップ前に出場資格を有する選手を除き上位 2 名であること」と記載がある。

 

文言に沿った基本的な理解をすれば、ワールドカップ(2020ロンドンマラソン)で、枠を取得した選手が内定するはずである。万が一にも、マラソンワールドカップに日本代表として出場した場合に限る、というような解釈をするのであれば、なぜ追加枠を使わないのか、特に、現時点で派遣対象となっている男子3名の代表のうち、1名は鈴木朋樹選手であり、既に国枠と出場権利を取得している選手であることから、「日本」としての、出場枠獲得機会をみすみす減らしてしまうことに繋がる。

 

選手と連盟の間に、信頼関係やコミュニケーションできる関係構築ができていれば、このような事態にはならないものの、私自身、2012年のロンドン大会前より、様々な大会や遠征、合宿などに帯同したり、選手をはじめ多くの関係者と接点を持つなか、両者の関係が理想的な状態にあるとは言い難い。大なり小なり他の競技や国外に目を向けても同じような課題はあるとは思うが、競技やスポーツ文化が発展しない大きな要因の一つだと思う。

 

長くなるのでここでは詳しく触れないが、障がい者スポーツの発展は、社会にポジティブなエネルギーを与え、日本が抱える多くの社会課題の解決にも繋がる。言い換えれば、いまだ旧態依然とした体質、先進国とは思えないレベルの、選手やスポーツに対する、不十分またはアンバランスな支援環境は、現在の日本が抱える課題の縮図ともいえる。

 

そのような中でも、チカラのある、意思のある企業がプロ契約または障がい者雇用枠を活用し、トップアスリートの競技環境の改善に取り組んだり、モノづくりで世界と戦える競技用具を開発したりと、変革が起きている分野もあるが、総じて日本の障がい者スポーツ、スポーツ産業は、「まだまだこれから」、なのだと思う。

 

もう一つ、良い変化として、健常者のマラソン、つまりオリンピックの選考プロセスは、よりフェアでオープンな内容に改善された。会場が札幌に変更となるドタバタは、なんとも残念ではあるが、今後の選考過程において、全てのオリパラ候補アスリート達がフェアでクリアな情報のもと、最高のパフォーマンスを発揮されることを願っている。

 

個人的には、オリンピックのマラソン選考ルールを発表するという報道のタイミングで次のような提案をしていた。

 

MGCの構想が発表されたタイミングで、是非車いすマラソンも是非便乗してほしかった。

https://www.facebook.com/1423328372/posts/10209636997588087/

 

 

そして、TOKYO2020のマラソンコースが発表された際には、暑さ対策を兼ねて東京で提案したいこととして、

 

1.ミッドナイトスタート。

2.マラソンだけでも、オリパラ同時開催。

 

を提案していた。

 

東京で、オリパラ融合の歴史を作れなかったのは少し残念だ。

 

https://www.facebook.com/1423328372/posts/10212957637842018/

 

 

マラソン並に長くはなったが、車いすマラソンの、残りの選考レースに出場する選手達には、正しい情報を取得し、最高の準備をして、今後の選考期間内に出場するレースにおいて、ベストパフォーマンスに繋げてもらいたい。