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Talk Vol.10

ワクワクやドキドキをスタジアム・アリーナに(上)

建築家
仙田 満

開放的な空間は“閉所恐怖症”だから!?/進化するスタジアムとユニバーサルデザイン

【開放的な空間は“閉所恐怖症”だから!?】

二宮清純: 仙田さんは建築家として数々の作品を設計されました。プロ野球・広島カープの本拠地である新広島市民球場(マツダスタジアム)は近年の代表作のひとつです。

仙田満: 20数社が応募したコンペで、私が出した提案が運良く採用されました。コンセプトは「ダイナミックボールタウン」ということで、元気を喚起する野球場、町に開く野球場をイメージしました。従来の野球場は閉鎖的で、中で何をやっているかが外からではよくわからなかったんです。

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今矢賢一: 言われてみると、確かにそうですね。

仙田: 私は建築家なんですが、若い頃より閉所恐怖症なところがあるんです(笑)。狭いところが苦手で、壁に囲われているのもダメなんです。だから若い頃はエレベーターや地下鉄にもなかなか乗れませんでした。

二宮: マツダスタジアムは確かに開放的ですね。その開放感からか、球場に入るとすぐに“ビール飲みたいな”と思うのですが、その原点は閉所恐怖症だったとは(笑)。デザインする設計者の思想やマインドが作品に反映されるんですね。

仙田: ええ。それと私は中日球場(ナゴヤ球場)が新幹線の車中から見えたのが好きだったんです。だからマツダスタジアムも新幹線が広島駅に到着する時、11秒間覗けるというつくりにしました。

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二宮: 11秒間という時間も全部計算済みだったんですね。

仙田: はい。計算しています。広島駅は新幹線の停車駅なので、到着するまでに減速することも考えました。

二宮: 確かに乗客が「あ、野球やっている」と気付けるくらいの時間はありますよね。

今矢: メジャーリーグのボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイパーク周辺にもスタジアムをフェンス越しに眺められるバーがありますよね。スタジアム外にいる人にも少しでも興味を持たせられる工夫はすごくいいなと思います。

二宮: 外から中の様子を少しでも覗けることで、“何が行われているんだろう”というドキドキ感がありますよね。

仙田: そうですね。これは野球場だけでなく、あらゆる施設に必要なものだと思われます。

二宮: 閉鎖的だと“何が行われているのだろう”と、少し不気味でもありますよね。

仙田: ええ。お金を払って入場しなくても、球場の雰囲気をほんのわずかでも感じることができたら“いつかは見たい”と思うかもしれませんからね。

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二宮: 新球場効果は大きいですね。一時(2003年)は約95万人まで落ち込んだ観客動員数も、ここ2年は200万人を超えています。

仙田: 他にもメインコンコースへのスロープはゆったりとした勾配となっていて、そこを登っていくとグラウンドがバンと見えるようになっています。

今矢: すごいですね! それはワクワクします。

仙田: そういう球場へ入るまでの期待感と、入った時の感激を演出できることを考えています。

二宮: 駅からの動線にも、名選手や現役選手の写真などが掲出されています。球場へ近づくにつれて、段々期待感が高まっていく仕組みですね。

仙田: 球場もある種の劇場みたいなものですから。気持ちをどんどん高ぶらせていく空間的仕掛けが必要なことだと思います。

 

【進化するスタジアムとユニバーサルデザイン】

二宮: マツダスタジアムは“カープ女子”からも聖地扱いされています。今年1月からはトイレの通路にある鏡も増設されました。女性は並んでいる間に化粧直しもできるという心配り。これも仙田さんのアイデアでしょうか?

仙田: はい。これからの野球場では、女性のファンを大切にしなければなりません。松田元オーナーはそういったことも様子を見ながらどんどん改良していっているんです。

二宮: さらに試合中はトイレの中にいても、ラジオ実況が聴けるようになりました。これまではトイレが混んでいると大事な場面を見逃してしまうこともありましたが、試合の流れがわかるようになったことで、その心配は減りました。顧客目線でも球場が毎年進化しています。それでもまだ改善すべきだという点はありますか?

仙田: アメリカの球場は子どもの遊び場が結構充実しています。私は子どもの成育環境のデザインの専門家です。しかし、マツダスタジアムではまだそれが十分に実現できていません。それをいずれは充実させて欲しいですね。

二宮: 収容人数3万3000人のうち車椅子席が142席。マツダスタジアムの車椅子席の割合0.43%という数字はプロ野球団の本拠地の中でトップです。さらには人工肛門や人工ぼうこうを造設した人のためのオストメイト対応型トイレも12カ所設けているなどユニバーサルデザインに配慮したスタジアムとして知られています。

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仙田: 車椅子席については、メインコンコースではどこでも車椅子で見られますから、実際には300席は大丈夫といえます。私眼鏡をかけています。眼鏡を掛けなければ字が読めない。ほとんど誰もが障がい者で、またいつかは障がい者になりえるんです。だからユニバーサルデザインはこれからのスポーツ施設だけでなくて、集客性にもつながるので経済的な効果もあると考えています。工事費からすれば、スロープよりもエレベーターの方が安い。でもそれ以上のお客さん集める貢献度があると思うんです。

二宮: 工事費が安いとはいえ、稼働するエネルギーも考えれば、スロープの方がいいですね。

仙田: 長期的に見ても、そうですね。何よりも安全です。

<Vol.11に続く>

仙田 満 (せんだ みつる)

1941年12月8日生まれ。建築家。東京工業大学名誉教授。株式会社環境デザイン研究所会長。東京工業大学工学部建築学科卒業後、菊竹清訓建築設計事務所に入所した。68年に環境デザイン研究所を設立。1978年の毎日デザイン賞を皮切りに多数の賞を受賞した。近年の代表作に新広島市民球場(日本建築家協会賞)、国際教養大学図書館(村野藤吾賞)などがある。