Talk Vol.13
バスケットボールクラブ経営の現実と未来(下)
千葉ジェッツふなばし代表取締役社長
B.LEAGUE副チェアマン
島田 慎二
Sportful Talks、第5回目のゲストは登場するのは島田慎二さん。男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の千葉ジェッツふなばしの代表取締役社長を務め、チームは昨季リーグNo.1の観客動員をマークしました。その手腕が認められ、今季からは副チェアマンも兼任。チーム運営とリーグ改革の両輪を担う島田さんが語るバスケットボールクラブ経営の未来とは――。
【“二足のわらじ”の苦労】
二宮: B.LEAGUEの初代チェアマンである川淵三郎さんは島田さんを昔から買っていました。島田さんは今年から千葉の球団代表を務めながら、B.LEAGUEの副チェアマンにも就任しました。大変でしょう?
島田: 当然、大変です。イレギュラーなことですし、海外でもあまり例を見ないケースだと思います。月火はジェッツにいて、木金はリーグ。水土日はどちらもという生活をしています。どちらも全力投球しているのですが、周りは専業でやっている。専業でないことの影響はあるかなとも思います。どちらかに100%傾ければ、ジェッツをもっと飛躍させることもできますし、リーグはもっと改革できる。そういうもどかしさはあります。
二宮: 心配なのは、“二足のわらじ”を履くことで利益相反が生じてしまわないか、ということです。意図していないにも関わらず……。
島田: そうですね。例えばリーグがある会社とパートナー契約を結ぶ場合、その会社と手を組むことがリーグにとって良い選択でも、私と関係のある会社であれば他の人はよく思わないかもしれない。それで別の会社を選ぶようなことはしませんが、利益相反に対する目は思っていた以上に厳しいですね。ただ私は遠慮したら、この世界にいる意味がないと思っています。私は元々バスケットボール界にいたわけではないですし、そこにいなかったからこそできてきたこともたくさんあります。それが私の良さだと割り切っています。
二宮: スポーツでは競争と協調が重要なコンセプトだと思っています。競争しないといけない一方で、共栄・共存も図っていかないといけない。しかし、そのさじ加減が難しい。
島田: 私はビジネスマンなので、ビジネスの視点からアプローチしていこうと考えています。今やっていることは「島田塾」という各クラブとの勉強会です。ちょうどB1、B2の半分である18クラブが参加しています。そこで経営に対する意識改革をやっていく。経営がしっかりすることとお客さんを呼べることの因果関係はすごくあると思っています。私が力を入れているのは全クラブを底上げすることです。
今矢: 勉強会は各クラブと1対1なのか、それとも複数のクラブが集まってそれぞれの情報を共有するようなかたちをとっているのか……。
島田: 3つのステージを分けています。ファーストステージはジェッツの事務所に来ていただいて、ウチの社員教育や運営ノウハウを説明します。セカンドは数クラブに分けて、集客やスポンサー集めはどういうアプローチをすべきなのかを話し合う。サードステージは実際にそのクラブに出張するという段階を踏むようにしています。
二宮: 2020年東京オリンピック・パラリンピック開催をピークにして、そこから日本のスポーツはダウンサイジングに向かうという意見もあります。人口も減り、スポーツのパイそのものが縮小していくのではないかと……。
島田: それは有り得ると思いますね。今、バスケ界はオーバーバリューになっています。BjリーグとNBL合わせて7億円ぐらいだったのが、今は事業規模が50億円。世界のバスケットボールリーグを見ても3番目ぐらいになっています。でもリーグが世界のリーグと勝負できるかと言ったらそうではない。現実を見なきゃいけない。私もそういうスタンスでいます。
二宮: 生き残るためには何が必要でしょうか?
島田: 私は現在の36クラブの経営を底上げし、経営戦略を確立することで変わっていけると思っています。バスケの魅力は経営者に親会社から出向社長がないので、各クラブの本気度がすごい。ここが副チェアマンを引き受けた一番の理由なんです。規模は小さくても皆が命懸けでやっている。そこに知恵を授け、力を授けることで発展すれば新たな地域産業が起こるんじゃないかと可能性にかけて関わっています。
【アリーナ文化の可能性】
二宮: 日本はまだアリーナ文化がないですよね。アリーナの利用価値は、ヨーロッパの場合は病院や介護・保育施設、スーパーマーケットが隣接している。いわゆるワンストップとオールインワンです。そこに皆が集う。少子高齢化の時代、アリーナは市民生活のインフラとしても重要な役割が期待されています。
島田: そう思いますね。今いくつか動き始めているところもあります。ただ全部が全部、新しいアリーナを新設できるわけではありませんので、リノベーションしなくてはいけません。元々あるアリーナを改修してスマートアリーナに変える。今は1万人アリーナ、2万人アリーナという声もありますが、私は新設よりもリノベーションがキーになってくるのではないかと思っています。
今矢: アリーナづくりで取り組んでいきたいことはあるんですか?
島田: 船橋は新しいアリーナをつくる機運がないので、リノベーションでスマートアリーナ化を図っています。例えば1万人収容のアリーナをつくっても、招待券をたくさん配ってやっと1万人のお客さんが入るという状況では意味がない。今のバスケ界のポテンシャルからして1万人規模の会場のチケット単価は1000円くらいです。今、ジェッツはホームアリーナの収容人数が約5000人でチケット単価は2000円。そう考えると1万人アリーナの収益構造に追いついているんです。その5000人のところに1000人の立ち見客を入れれば、逆転できる。要は6000人しか入らないアリーナが問題ではなくて、観に来たいお客さんがどれだけいるか。つまり潜在層の方が重要なんです。そうすると媒体も付きやすくなりますから。
二宮: 確かに“満席感”は大事ですね。
島田: 「満席の画が撮れないと放映はできない」とメディアの人から100%言われます。1万人収容のアリーナで観客が7000人では放映できないと。新しいハコをつくることばかりに目がいき、満席の画を見せることの大事さを口にする者が少ない。アリーナを推奨する立場ではありますが、一方で冷静に収益性も見ています。
二宮: その通りだと思います。ホワイトエレファント(無用の長物)になっては意味がありません。仕分けの作業がまだできていない気がします。
島田: 確かに、まだ仕分けという概念はないです。そこは私も課題だと感じています。私は野球をお祭りで、バスケは映画だと考えていま
す。そんなに大きい映画館はいらない。野球はお祭りなので、大きな神社に人が集まる。野球を知らなくてもあの空気感だけで楽しいというのが価値だと思うんですよ。バスケは映画やコンサートのようにフォーカスして見る。少し質が違うんです。スタジアムを1年間で長い期間使用する野球とは違い、バスケは年間約30試合。残り330日をどう稼働させるかを考えた時に、そんなに毎日ライブやコンサートができるわけではない。ただ闇雲に大きなハコをつくることには賛成できません。
二宮: 例えば解説者つきのシートなど、付加価値をつけてプレミア感を出すこともできますよね。いわゆるスポーツホスピタリティです。
島田: そういう工夫は必要だと思っています。ジェッツはJALがスポンサーですから、ファーストクラスの席を購入して、ファーストクラスの席で見られるというシートを考えています。市民体育館を借りている分、限界はありますが、これからもいろいろなことにチャレンジしていきたいと思っています。