Talk Vol.21
理解を広げ、ビジネス化へ(下)
全日本実業団自転車競技連盟理事長/Team UKYO主宰
片山 右京
第9回のゲストは2月に自転車ロードレースの「Jプロツアー」を主催する全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)の理事長に就任した片山右京さんです。片山新理事長が描く自転車界の未来とは――。
【可能性を秘めるeスポーツ】
二宮: ところで右京さんが自転車の魅力に触れたきっかけは?
片山: 元々、父親に山登りに連れて行ってもらっていたので冒険がしたかった。最初、手に入れた冒険のツールが川で拾ってきた自転車を自分で修理して塗装した。それで相模湖や江の島に行くなどサイクリング少年だったんです。43歳になって自転車を始めたのは今中大介と対談したことで自転車への気持ちが再び沸いてきた。登山のためにトレーニングで自転車に乗っていると、感覚的にはレーシングカーを運転するときに似ていたんです。
今矢: ドライバーをされていたときには自転車トレーニングは取り入れていなかったんですか?
片山: トライアスロンはやっていたんですが、きつい練習のひとつで、当時は苦しいからあまり楽しいと思わなかった。
二宮: ヨーロッパはF1とサッカーと自転車が三大スポーツと言われている。そういう風景に日本を近付けたいと?
片山: そこには心理学的な“車脳”を取り払って、自転車を車と認めてもらうことが必要。問題提起で事故にも目を向けてもらって、どう解決していくかを考えていかなければいけません。
今矢: そういうビジョンや方針があるのがすごく良いですね。自転車ユーザーはたくさんいますし、これからも増えると思います。
二宮: 今、国内で自転車は何台出回っているのでしょう?
片山: 登録は2000万台。稼働は1600万台と言われていますが、車と実数は大きく変わらないんです。競技人口は40~60万人ぐらい。まだまだポピュラーなスポーツじゃないので、楽しく乗れる環境をつくり、安全を担保できれば健康に良い。千葉のサイクリング協会の会長は78歳ですが、毎日自転車で100km走っているそうです。マラソンは3時間15分台で走る。
二宮: ふくらはぎが弱くなると立てなくなったり、病気になると聞きます。第2の心臓だと。そのためにつま先立ちのトレーニングを毎日している方もいらっしゃいます。そう考えると、自転車に乗ることはふくらはぎを鍛えることにも繋がる。高齢化社会をにらむ上でも、自転車は推奨すべきスポーツですね。
片山: eスポーツ化しようという動きもあります。最新のVR技術を駆使すれば、固定ローラーで室内にいながら世界中を走る疑似体験をできる。私たちは試験的にやっているのですが、連盟主催の大会。プロを呼んで競争。事故もないし、道路使用許可もいらない。最先端の遊びを吸収して、ビジネス化しないと。
二宮: eスポーツは2024年パリオリンピックで正式競技になる可能性があると言われていますね。TVゲームが主流ですが、よりスポーツ的ですね。
片山: 目の前の問題が機材の費用がかかる。自転車、シミュレーターなど全部揃えるとなれば一般の人がなかなか手の届かない額になる。だから各ショップやクラブチーム単位でやれば、店舗にも人が集まるので副次効果が生まれる。連盟がリアルと合わせて大会をつくっても良い。それがボトムアップに繋がりますし、ビジネスをしなければ自転車界は先がありません。
【次代に繋ぐ組織づくりを】
二宮: その他のビジネス展開は?
片山: ヒルクライムでタイムを争う人もいれば、自分に挑戦する人もいます。一方で登山家がタイムを競わないと同じように、写真を撮って景色を楽しんだり、健康のために登る人もいます。Eバイクに乗ってエコツーリズム。そういったことを旅行会社と手を組んだ「ツール・ド・おきなわ」を開催しています。今度は新潟県の佐渡でもツアーを計画しています。「町ぐるみで大会をやろう」と提案しています。
今矢: 弊社でもスポーツホスピタリティについていろいろと考えておりまして、東日本大震災の被災地の岩手県釜石市でのサイクリングツアーを計画しています。そこで現在の釜石を見て感じてもらう。被災地を支援するというより、現地に赴くことで参加者の方たちが釜石で力をチャージするという狙いがあります。
二宮: それはいいですね。ヨーロッパでもアウシュビッツ収容所を訪れるツアーがあります。記憶に留めようと考えている。
片山: 陸前高田市で毎年復興支援のサイクリングイベントをやっているんですが、今年で7年目になって補助金も減ってきて、決して運営は楽ではありません。でも実際に見て持ち帰ってくるものはお金で買えないことです。
今矢: 2019年はラグビーW杯、2020年はオリンピック・パラリンピック、2021年はワールドマスターズゲームズと国際的なスポーツイベントの日本開催が続きます。19年から日本のスポーツが産業として変わっていくことを発信できるチャンスだと思います。
二宮: 理事長としてやろうとしていることに、あえてプライオリティをつけるならば?
片山: 核は選手の育成や自分たちの連盟のレースです。まずは21年のプロ化を一番に考えています。
二宮: 選手もプロ契約?
片山: そうですね。レギュレーションはB.LEAGUE創立に関わった人たちが来て、同じもので進めようと考えています。プロ化に向けては有識者に入っていただいて、憲章をつくっています。東京オリンピック・パラリンピックが終わった後、次の人たちにスムーズに渡せるような組織づくりを行っていきたいです。