Talk Vol.33

ファンとチーム、選手を繋ぐ入り口

エンゲート株式会社代表取締役
城戸幸一郎

今回のゲストはエンゲート株式会社の城戸幸一郎代表取締役です。同社はスポーツギフティングの先駆け的な存在。エンゲートが生み出したスポーツチーム、選手を応援する新たな形とは――。

 

二宮清純: 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、スポーツ界は無観客や人数を制限しての試合開催が続いています。ここにきて新たな応援スタイルであるスポーツギフティングに注目が集まっています。

城戸幸一郎: 我々は2018年2月に創業し、10月からスポーツ特化型のギフティングサービスを始めました。サービスを簡単に説明すると、スポーツを観ているファンが素晴らしいプレーに対し、その感動をデジタルアイテムに乗せて贈るというものです。このサービスを通じ、各スポーツチームや選手の収益プランを生み出すことができます。マイクロスポンサーシッププランと呼ばれるものです。スポーツチームの売り上げの作り方としては、企業スポンサー、ファンクラブという従来の手法がありましたが、ファンの方々がスポンサーの一部を担っていく。全く新しい概念の世界をつくらせていただいていると自負しています。

 

今矢賢一: いわゆる投げ銭システムとは違うのでしょうか?

城戸: 我々は単なる投げ銭システムとは意味合いが違うと思っています。プロアマ合わせて57チームと契約していますが、ギフティングをもらったらチームや選手が、エンゲートのサイト内でファンにお礼を返すことができます。双方向のデジタルを使ったファンと選手、チームとの関係性をつくるシステムです。実はエンゲートという社名もエンゲージメントとゲートを掛け合わせた造語です。ファンとチーム、選手を繋ぐ絆を作り、その入り口になりたいという意味で名付けました。そのひとつの手段がギフティング。あくまでも新しい関係性、エンゲージメントの形です。

二宮: スポーツギフティングというシステムは、何かにヒントを得て始めたのでしょうか?

城戸: 10年以上前、私の親友である石橋顕という男が、セーリング日本代表として北京オリンピック出場を目指していました。セーリングは資金が必要なスポーツです。彼はどうしても北京オリンピックに出たいということで地元の企業に頭を下げたり、友人たちがグッズを買ったりして、なんとか資金調達に成功することができ、北京オリンピックに出場できたんです。その時に、彼のように資金を集めることができないアスリートが世の中にはたくさんいるんじゃないかなと感じたのが最初のきっかけです。才能や能力、モチベーションもあるのに、資金面で自分の夢を諦めてしまうアスリートがたくさんいるんじゃないかと。その数年後にはフィギュアスケートの羽生結弦選手がパフォーマンスを終えた後、リンクの中にファンが“クマのプーさん”のぬいぐるみを投げ入れるシーンを見た時にピーンときました。“これをデジタル上で表現できたら、アスリートの課題を解決できるんじゃないか”と思ったんです。

 

国境を越えた応援の形

二宮: 今矢さんが住んでいたオーストラリアにはこういうビジネスモデルはあるんですか?

今矢: オーストラリアはあまり聞きませんね。元々、ファンドレイジング(活動のための資金を個人、法人、政府などから集める行為の総称)というのが文化として根付いています。インターネットが普及する前、ファンドレイジング用のチョコレートボックスがあり、学校で資金を集めたい人が1ドルで仕入れたものを2ドルで売るような仕組みがありました。私がオーストラリアの高校に通っていた時には、同級生にトランポリンで世界4位になった子が世界大会に行く前に学校でチョコレートを売っていましたね。そういうアスリートに対して支援する文化は確かにありますね。

城戸: 寄付文化が根付いている国の方が我々のビジネスモデルに適している可能性は高いと思っています。

今矢: 私も合致すると思いますね。我々もチャレンジしたことがありますが、インターネットの普及に伴い、クラウドファンディングをはじめ支援の仕組みはたくさんありますからね。セミヌード写真集を出して支援を集めるとか、支援する対象者のために100キロマラソンにチャレンジする、などユニークな取り組みもたくさんあります。クラウドファンディングとの差別化はどのように図っていますか?

城戸: クラウドファンディングは素晴らしいサービスだと思うんですけど、基本的には目的があって、そのプロジェクトのみで完結してしまうものです。我々のギフティングサービスは、いつでもどこでも、24時間365日、素晴らしいと思った瞬間に、ギフトという称賛を送ることができます。ギフティングは、チームや選手がつくっていける絆という名の資産だと思っています。今まで自分を応援してくれたファンに、“次はセカンドキャリアでこんなことをやりますよ”と告知ができるような機能も検討していきます。アスリートが現役を終えた後、ゼロからのチャレンジとなるのではなく、現役時代にギフティングしていただいたファンをアセットとして活用していけるという関係性を作っていきたい。このあたりはクラウドファンディングとは全く違うところだと思います。

二宮: いわゆる寄付行為とは違うのでしょうか?

城戸: サービスとしては寄付行為にはなっていません。ビジネスモデルとしては、デジタルアイテムを買っていただき、そのロイヤリティーがチームや選手に還元されるという仕組みです。Eコマース(電子商取引)の一種ですね。

二宮: 寄付行為であれば税金を控除してもらえる。例えば、ふるさと納税と連携することもできるのではないでしょうか。

城戸: 実は同じようなアイディアをいただいたこともあります。自治体とご一緒できれば、そういったスキームを作っていける可能性もあると思っています。

二宮: スポーツギフティングという形は、世界でもあまり例を見ないものですよね。

城戸: 我々もスポーツギフティングサービスは海外でもあまり存在していないと認識しております。今年の秋からはクロスボーダーギフティングということで、海外のファンが日本のスポーツチームに我々のサービスを使ってギフティングができるというサービスも開始していく予定です。今、日本のスポーツチームにとって、アジア戦略が非常に重要だと思っていますが、人口が減っていく中で、どうやってファンを獲得するか。JリーグもBリーグも視線がアジアに向いている中、我々のクライアントのひとつであるBリーグの三遠ネオフェニックスさんがフィリピンの国民的英雄であるサーディ・ラベナ選手を獲得しました。このラベナ選手に対し、フィリピンからギフティングができるというスキームを早ければ今年10月にスタートしたいと考えています。これを皮切りに、国境を越えたスポーツ応援の形、新しい形を作っていきたいというのが我々の思いです。

二宮: このデータはチームにとっても役立ちますよね。

城戸: おっしゃる通りです。我々の仕組みというのは、世界初のスポーツファンDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)になり得る。スポーツを応援する方の有益なデータになっていくと考えています。

 

スポーツファン最大のDMP

今矢: ユーザーに登録料は必要なのでしょうか?

城戸: ユーザー登録は無料です。さらにSNS連携ができるようになっています。ツイッター、フェイスブック、グーグルのアカウントを持っていれば、簡単に登録できます。ポイント交換というものもありまして、クレディセゾンさんと提携させていただいて、永久不滅ポイントを使い、ギフティングをすることができます。そういったポイントを有効利用し、ギフティングに使えるという世界を構築していっているところです。

今矢: いろいろな会社のポイントと連携していければ、さらにユーザーも増えていくでしょうね。

城戸: そうですね。余ったポイントの使い道がないのであれば、ぜひエンゲートポイントに換えてスポーツチーム、選手を応援する仕組みを作っていきたい。そういうポイントの出口としてのエンゲートポイントにもしていきたいと考えています。

二宮: ユーザーの情報は細かく取っているのでしょうか?

城戸: 個人情報はそんなに細かくは取れていないんです。まずは簡単にユーザー登録をできることを重視しています。近いうちに住所、好きなスポーツなどの情報を取得していくようにして、いろいろな意味でスポーツファンの解析をできるようにしていくつもりです。スポーツファン最大のDMPみたいな形にはしていきたいなと思っています。

二宮: そのデータを蓄積すれば、別のサービスを提供することもできますよね。

城戸: おっしゃる通りです。地域活性という意味で言えば、地域経済、地域の商店街に我々がいろいろな意味で送客をすることができます。クライアントのひとつ、阪神タイガースさんとの取り組みは、阪神と地元の放映権を持っている毎日放送さんと我々の3社で行っています。これは毎日放送さんが放映している阪神戦をテレビ観戦しながら、ギフティングで応援しましょうという取り組みです。このモデルは他のチームでも進めていまして、これから厳しくなっていく放映権ビジネスの中の新しい売り上げの作り方にもなると思っています。

二宮: 今後に向けての課題は?

城戸: まだ認知度が低いことですね。57チームに契約していただいて、途中で辞められたチームはひとつもありませんが、まだまだ“スポーツギフティングとは何?”と思われている方も多く、ユーザーさんも恐る恐るという感じです。まだまだ世の中に知られていないのが課題です。先述したようにスポーツギフティングは地域活性にも繋げられますし、可能性のあるシステムだと思っています。もっと認知を高めていけるよう、これからも頑張っていきます。

 

ゲスト

城戸幸一郎(きど こういちろう)

1974年、福岡県生まれ。九州大学卒業後、ソフトバンクに入社し、主に人事を担当した。楽天では17年間勤務し、全国の地方支社や海外事業の統括と、フード&ドリンク事業部の執行役員を務めた。テクノロジーの力で中央集権を分散させるブロックチェーンの世界に惹かれ、2018年に起業。エンゲート株式会社を創業した。社名はエンゲージメントとゲートを合わせた造語。ファンとチーム・選手を繋ぐ入口となるという思いが込められている。小学生時からサッカー少年で、現在はジョギングとキックボクシングに励んでいる。

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