Talk Vol.7

スポーツはビジネスになる(下)

東北楽天野球団元オーナー/U-NEXT特別顧問
島田 亨

2回目のゲストとして登場いただくのは、島田亨さん。
プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスの球団社長、オーナーとして活躍しました。
2004年プロ野球再編問題で誕生した新球団を参入1年目で黒字経営に導いた手腕は高く評価されています。プロ野球球団経営は儲からない。そんな常識を覆した島田さんが語るスポーツビジネスの現実と未来とは――。

【地域との連携】

二宮: 「東北楽天ゴールデンイーグルス」というチーム名は地域密着であり、法人としてのメリットを考えた場合の非常にいい落としどころのような気がします。

島田: サッカーのJリーグが法人の名前を付けなかったこともあり、僕らも地元の方々から「楽天を付けるべきではない」との声は結構ありました。そこは受益者負担の反対の考え、“負担者受益”です。オーナー会社が一番リスクを持ってやっていますから、せめて名前は売りたかった。

二宮: “負担者受益”とはいい言葉ですね。資金を出している以上はリターンも欲しい。それは当然のことです。

島田: そうでなければ、なかなかお金は出せないと思います。

二宮: あとは「仙台」ではなく「東北」と名乗りましたよね。そこには何か理由があったのでしょうか?

島田: まず東北の地にプロ野球団が千葉ロッテのセミフランチャイズとしてしか過去にはなかった。だから、ある日本の一角のムーブメントとして球団をつくろうという意図がありしました。

二宮: 地域との連携という意味では、少年野球教室や学校訪問を行うこともひとつです。地域といい関係を結ぶために役立ったんじゃないですか。

島田: はい。野球が商売ですから、野球以外のことでやるよりも野球に繋がることで地域と関わっていくことが大事だと思います。

今矢: 確かにそうですね。

島田: そういう意味で言うと、野球教室は2つに分けられます。1つは長期的なファンづくり。例えばメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースは“何個子供にキャップを被せることができるか”を考えています。確かにロゴマークが入ったキャップをもらって、被っているとファンになるんですよね。野球教室はそういうアプローチのひとつでもあります。

二宮: 長期的な戦略で言えば、早い時期に東北楽天ファンにさせるということですね。

島田: はい。あとはJリーグで言うところの下部組織のような選手を育成していく仕組みが野球にはなかった。それを見据えながら、本格的な野球チームをつくって地元の子供たちを、地元のチームが指導する。そのチームが全国大会で勝つと、地元の人たちもうれしい。それがイーグルスを応援することにつながると思っています。

“球団努力”ではなく“球界努力”

二宮: 04年秋に楽天が球団参入に手を挙げた時には、今矢さんはどう思われましたか?

今矢: 新しい産業のプレイヤーが参画することはすごくいいことだなと感じました。初年度黒字化というセンセーショナルなメッセージは、自分たちの球団のためではなくリーグ全体、あるいは野球全体に対してのビジョンがあってこそだと。

二宮: それまでの野球界は球団それぞれが努力をする“球団努力”はしていても“球界努力”はしていなかった。

島田: 最大の商品は選手でも、チームでも、チケットでも、グッズでもなくゲームなんです。ゲームを構成するのは1チームではできないわけですから。もっと言えばリーグがどうゲームをつくるか。我々が参入してから“プロ野球もビジネスとしてみましょう”と発信し続けました。それでメジャーリーグに倣って事業するための会社をつくればいいと考え、パ・リーグ球団社長で集まって話し合い、07年に「パシフィックリーグマーケティング株式会社」を設立しました。

二宮: 楽天は06年に野村克也さん、11年には星野仙一さんを監督に呼ぶなど、常に注目を集めていた印象があります。

島田: 強豪チームではなかったですし、初年度以降は黒字も出せていませんでした。それを考えると話題をつくっていかないとプロ野球全体が地盤沈下していってしまう。そこは意図的に仕掛けていたところもありますね。

二宮: 個性の強いお2人ですから、良好な関係を保つのはなかなか大変だったんじゃないですか?

島田: 監督には華があって、長期的にモノを考えてくれる方がいいので、野村さんや星野さんは条件に合うんですよね。あとは球団のポリシーにマッチするかどうかですから。

二宮: 球団経営に関わってきて、改善すべきと感じた点は?

島田: 機構だと思います。リーグが機能しないとスポーツは死んでしまう。プロ野球で言えばNPB。プロ化してない競技でも連盟や協会が引っ張っていかなければいけないと思います。どうしても長い歴史の中で既得権益が発生してしまって、興行の仕方や運営方法が変わらないままのところもあります。

今矢: 僕らも日本でまだまだメジャーじゃないスポーツ選手のサポートに関わる際に、連盟の方とお話をしたり、大会に行ってみると肌で感じる時があります。

島田: もう少しビジネスセンスを持つことで、スポーツ自体をフルーツフル(実りの多い)ものにできればいいですね。

ゲスト

島田 亨(しまだ とおる)

1965年生まれ。87年に東海大学卒業後、株式会社リクルートに入社。営業職で活躍した。89年には株式会社インテリジェンスを創業。2000年には株式会社シーズホールディングスの代表取締役を務めるなど、複数の企業で経営に参加した。04年10月には楽天野球団に迎えられ、副社長を経て、代表取締役社長に就任。08年には三木谷浩史氏よりオーナー職を引き継ぎ、球団社長と兼任した。

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